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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)106号 判決

原告

グルード・インコーポレイテツド

被告

特許庁長官

主文

特許庁が、昭和59年審判第6659号事件について、昭和60年2月6日にした審決を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文同旨の判決

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

クレバイト・コーポレイシヨンは、1967年12月29日にアメリカ合衆国にした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和43年12月23日、名称を「静電記録媒体」とする発明(以下「原出願の発明」という。)につき特許出願した(同年特許願第93822号、以下「本件原出願」という。)。原告は、昭和48年11月5日、右特許を受ける権利を右同人から譲り受け(同日特許庁長官にその旨の届け出をした。)、右本件原出願に基づいて昭和56年4月16日特許法44条1項による特許出願(同年特許願第57806号、以下「本件分割出願」という。なお、その際発明の名称を「静電記録装置」とした。)をした(以下これに記載の発明を「本願発明」という。」が、昭和58年11月21日拒絶査定を受けたので、昭和59年4月13日、これに対し審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第6659号事件として審理し、昭和60年2月6日、「本件審判の請求は、成り立たない。」(出訴機関として90日を附加)との審決をし、その謄本は、同年3月10日、原告に送達された。

二  本願発明の特許請求の範囲

A  絶縁体に複数の充電用電極手段を埋込み前記充電用電極手段の一端をパルス電圧充電装置に電気的に接続し他端を電気エネルギが発散するように露出させ且つその露出端部を前記絶縁体の端面と略一致させるように配置した充電用ヘツドと、

B  導電層と前記充電用電極手段の他端に対向して静電電荷を受けて保持する電荷保持面を有する誘電層と該誘電層に固定され且つ前記電荷保持面より上方に突出して記録動作中に前記電荷保持面と前記充電用電極の前記他端との間に所定の間際を形成するスペーサ手段とを備えた記録媒体とを具備し、

C  前記パルス電圧充電装置により前記充電用電極手段に充電用パルス電圧を印加して、前記電荷保持面に充電領域を形成する静電記録装置

三  審決の理由の要点

1  本願発明の要旨は前項のとおりである。

2  これに対し、原出願の発明の要旨は、原出願明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりの、「充電用電極手段を有する電圧充電装置で静電記録をするのに用いられる静電記録媒体において、静電電荷を受けて保持する外表面を有する誘電層と、前記誘電層の内部に少なくとも一部が埋設され前記誘電層の前記外表面から0.00127~0.01016mm(0.05~0.4mil)突出したスペーサ手段を有し、前記スペーサ手段は前記誘電層の前記外表面のうち少なくとも80%に相当する電荷保持面を残すように相互に間隔をあけて設けられていることを特徴とする静電記録媒体」にあるものと認められる。

3  本願発明と原出願の発明とを比較すると、(1)本願発明のA項は原出願の発明の「充電用電極手段を有する電圧充電装置」に対応しており(以下「対応点(1)」という。)、また、(2)本願発明のB項は原出願の発明の「充電用電極手段を有する電圧充電装置」以外の構成に対応している(以下「対応点(2)」という。)。そして、本願発明のC項はA項とB項の構成を具備した結果生じる作用を表現したものであつてそれ自体格別な構成を表わしたものではない。

4  そこで、対応点(1)(2)について検討する。

対応点(1)については、本願発明のA項の構成は静電記録装置においてすでに周知(例えば特公昭36-4765号公報の第1図参照)であり、また原出願の電圧充電装置も同一の構成を備えている(原出願の図面第1図参照)からこの点の差異は格別なものではない。

次に、対応点(2)についてみると、両者は以下の(イ)~(ニ)の点で一応異つている。すなわち、(イ)本願では導電層を有するのに対して原出願には記載されていない。(ロ)スペーサ手段が誘電層に対して本願では固定されているのに対して原出願では埋設により固定されている。(ハ)スペーサ手段の誘電層に対する突出量が原出願では0.00127~0.01016mmであるのに対して本願では特定されていない。(ニ)原出願ではスペーサ手段が誘電層の電荷保持面を少なくとも80%残すように設けられているのに対して本願ではそのような構成を特定していない。

しかしながら、(イ)の点については、導電層を有する記録媒体を用いることは静電記録装置で周知であり(例えば特公昭36-4120号公報、特公昭36-20506号公報参照)、しかも、原出願の静電記録媒体も導電層を有するものであることはその発明の詳細な説明、図面を参照すれば明らかである。また、(ロ)~(ニ)の点については、本願のスペーサ手段の各構成が原出願のスペーサ手段の各構成をそれぞれ包含していることは本願の明細書の発明の詳細な説明、図面を参照すれば明らかであつて本願発明の構成に格別の効果も認められないからこれらの点の構成の差異も格別なものではない。

5  このように本願発明と原出願の発明との差異はいずれも格別なものではないから両者は同一のものと認めるのが相当である。

とすれば、本願は2発明を包含する原出願の一部を新たな出願としたものではないから本願について出願日のそ及を認めることはできない。

したがつて、本願発明は原出願を先願として特許法39条1項により特許を受けることはできない。

四  審決の取消事由

審決の理由の要点1、2は認めるが、同3ないし5は争う。

審決は、以下主張のとおり(1)本願発明と原出願の発明とを対比するに当たり、両者の構成上の差異を看過し、(2)本願発明と原出願の発明との対応点(1)(2)に対する判断を誤り、(3)本願発明の効果を看過した結果、本願発明は原出願の発明と同一であるとの誤つた結論に至つたものであるから違法として取消されなければならない。

1  構成上の相違点の看過(取消事由(1))

審決は、本願発明と原出願の発明との同一性を判断するに当たり、本願発明のA項が原出願の発明の「充電用電極手段を有する電圧充電装置」に、同B項が原出願の発明の「充電用電極手段を有する電圧充電装置」以外の構成にそれぞれ対応するとし、同C項は同A項と同B項の構成を具備した結果生じる作用を表現したものであつてそれ自体格別な構成を表したものではないとしているが、右両発明の対比判断は誤りである。

本願発明は、C項の「パルス電圧充電装置により前記充電電極手段に充電用パルス電圧を印加して、前記電荷保持面に充電領域を形成する静電記録装置」を発明の対象としているのに対し、原出願の発明は、「充電用電極手段を有する電圧充電装置で静電記録をするのに用いられる静電記録媒体」を対象とする。すなわち、本願発明は、記録媒体と該記録媒体に記録をするために用いる充電用ヘツドとを備えた記録装置を対象とするのに対し、原出願の発明は記録媒体のみを対象とする。このように、本願発明と原出願の発明とは対象物そのものの構成を異にする。

被告は、本願発明のA項の(a)「絶縁体に複数の充電用電極手段を埋め込み」、(b)「露出端部を前記絶縁体の端面とほぼ一致させるように」の部分については、原出願の明細書にこれに対応する記載があるから、A項は原出願の「充電用電極手段を有する電圧充電装置」と抵触し、両発明は客観的に識別しえないと主張する。

しかしながら、本願発明が原出願からの分割出願である以上、原出願の明細書の発明の詳細な説明の中に本願発明の内容が記載されているのは当然である。すなわち、原出願の明細書には、電圧を印加して静電記録に行う記録装置用の静電記録媒体に係る発明と、そのような静電記録媒体に静電記録を行う静電記録装置に係る発明との2つの発明が記載されているのである。そして原出願の発明は、これらの発明のうち静電記録媒体に係る発明であり、本願発明は静電記録装置に係る発明である。

しかして、後記被告が指摘する原出願明細書中の(イ)(ロ)の記載は、本願発明の対象である静電記録装置の構成に関する記載であり、原出願の発明の対象である静電記録媒体の構成に関する記載ではない。したがつて、そもそも原出願の「充電用電極手段を有する電圧充電装置」に、右被告指摘に係る(イ)(ロ)の記載が内在する旨の被告の主張は当たつておらず、右A項が原出願の「充電用電極手段を有する電圧充電装置」と抵触する旨の主張は当つていない。

2  対応点(1)(2)の判断の誤り(取消事由(2))

(一) 対応点(1)について

原出願の電圧充電装置は、充電用電極手段の他端の露出端部と絶縁体の端面とが略一致している充電用ヘツドのほかに、充電用電極手段の端部と絶縁体の端面とが一致していない充電用ヘツドをも含んでいる。したがつて、原出願の電圧充電装置は本願発明のA項の要件と同一ではなく、別の要件A'としてとらえなければならない。このような場合、一方の要件Aが周知であるといつても、そのことから直ちに該要件Aと他の要件A'との間に差異がないと結論づけることはできない。

また、審決は、原出願の図面第1図の電圧充電装置も本願発明のA項の充電用ヘツドと同一の構成を備えているから、本願発明のA項の充電用ヘツドと原出願の電圧充電装置とに格別の差異がないとしているが、前述のとおり原出願の電圧充電装置は、原出願の図面第1図の充電用ヘツド以外の充電用ヘツドをも含むのであつて、右第1図に記載された充電用ヘツドとは同一ではないから、右第1図に本願発明のA項の充電用ヘツドが記載されていることは対応点(1)の差異が格別なものでないことの根拠にならない。

(二) 対応点(2)について

本願発明のB項の要件は、記録媒体の誘電層にスペーサ手段を固定する点のみを内容としたものではなく、記録動作の間スペーサ手段が充電用電極手段の端部との間に所定の間隙を保持するという構成、すなわち、記録動作の間中スペーサ手段を充電用電極手段の露出端部に接触させる構成をとる点をも内容としている。この後者の内容によつて、A項の要件とB項の記録媒体との相互関係が特定され、その結果本願発明に特有な効果が得られるのである。しかるに審決は、この点を看過して記録媒体の構成のみを取り上げ、(イ)ないし(ニ)の相違点を挙げてこれらの相違点が格別でないから対応点(2)にも格別な差異がないとの判断をしており、この判断には重大な誤りがある。

3  A項とB項との結合から生じる効果を看過した誤り(取消事由(3))

本願発明は、B項で特定される記録媒体に接触させる充電用ヘツドとして特にA項の構成の充電用ヘツドを用いることにより、充電用電極手段の数が少ない場合、針状電極のように電極手段の径が小さい場合、スペーサ手段の数が少なくてスペーサ手段相互の間隔が広くなるような場合等のいかなる条件下においても、充電用電極手段の露出端部と記録媒体の電荷保持面との間に高い精度で間隔を維持することができるという格別の効果を得たのである。この効果は、原出願の発明では得られない効果である。審決は、右本願発明の格別の効果を看過したものであり、本願発明と原出願の発明とに格別の差異がないとの審決の判断は誤りである。

第三請求の原因に対する認否及び主張

一  請求の原因1ないし3の事実は認めるが、4の主張は争う。

二  原告主張の審決取消事由は失当であり、審決には違法の点はない。

1  取消事由(1)について

(一) 原出願明細書には、特許請求の範囲の末尾に「静電記録媒体」と記載され、冒頭に「充電用電極手段を有する電圧充電装置」と記載されている。これら冒頭と末尾の記載は1発明として一体不可分の構成であり、右「充電用電極手段を有する電圧充電装置」が発明構成要件として存在していることは明らかである。

(二) 2発明が同一であるか否かを判断する際には、これら両発明の異ることが客観的に識別されうるものでなければならないことは明らかであり、両発明に広狭の差があるだけで部分的に抵触する場合は構成の面から客観的に両発明を別個のものと識別することができないのであるから両者は同一発明である。

これを本件の両発明の構成の見地からみると、本願発明のA項の(a)「絶縁体に複数の充電用電極手段を埋め込み」、(b)「露出端部を前記絶縁体の端面とほぼ一致させるように」の各事項(以下単に(a)(b)事項という。)は原出願明細書の(イ)「充電用電極は、……プラスチツクまたはセラミツク絶縁体の如き適当な絶縁物質から成る支持体18に埋設するのが好ましい」(甲第3号証5欄39行~42行)、(ロ)「充電用電極16は、その下部露出端20が絶縁支持体18と同一平面上にある」(同6欄5行~7行)の記載(以下端に「(イ)(ロ)の記載」という。」に基づけば、原出願に明らかに存在している。したがつて、原出願の「充電用電極手段を有する電圧充電装置」には前記(a)(b)事項が内在し、その結果、A項の構成は原出願の「充電用電極手段を有する電圧充電装置」と抵触している。とすれば、この点で両発明は客観的に識別し得るものではなく同一である。

(三) また、原告は、右(イ)(ロ)の記載は本願発明の対象である静電記録装置の構成に関する記載であると主張するが、原出願の発明の理解は原出願の明細書のみの理解により行うべきものであり、後に出願された本願(分割出願)の存在を理由に、原出願の発明の理解を左右してはならないことは当然である。逆に、分割出願も原出願と別個独立の出願であるから分割出願の発明の理解は原出願の明細書、図面の内容に左右されないのである。

以上のとおり、取消事由(1)は根拠がない。

2  取消事由(2)について

(一) 対応点(1)について

発明の同一性を論ずる場合の手法として、周知の技術の存在を考慮して2発明の差異を判断することは普通のことである。つまり、発明の構成の差異が周知技術の範囲にとどまりかつそれの差異による格別の効果がない場合(本件の2発明の間に格別な効果の差異がない。)に2発明が同一と認められることは常識である。

原告は、「原出願の電圧充電装置は、充電用電極手段の端部と絶縁体の端部とが一致していない充電用ヘツドも含んでいる。」と主張するが、右主張の構成は、原出願明細書、図面になんら記載されていないのであるから、合理的な根拠はない。更に、原出願明細書の「従来の静電記録方式に適用できる」(項第3号証5欄7、8行、従来の方式とは審決で述べた周知のA項の構成である。)、「充電用電極16は、その下部露出端20月絶縁支持体18と同一平面上にある。」(同6欄5行~7行)の各記載に基づけば、原出願の発明も本願発明のA項の存在を当然のことと予定している。

(二) 対応点(2)について

原出願の発明の「充電用電極手段を有する電圧充電装置」は、前述のように本願発明のA項の構成を備えているのであるから、この電圧充電装置とスペーサ手段を有する静電記録媒体を併用して記録動作をさせれば、その結果として、原出願の発明も原告の主張する「記録動作の間中スペーサ手段を充電用電極手段の露出端部に接触させる構成」をとることになるのである。このように、原出願の発明も原告の主張する構成を当然予定しているのであり、この点は自明であるといえる。

原告は、審決がこの点を看過したと主張するが、その原因は、原告がこの点の構成を原出願、本願いずれの特許請求の範囲にも記載しなかつたことにあり、記載しておれば審決はそれなりに検討したと考えられる。また仮りに、本願の特許請求の範囲についてのみ原告主張の構成を記載していたとしても、右のとおり、それは原出願の発明において自明といえるのである。したがつて、対応点(2)についての審決の判断に誤りはない。

3  取消事由(3)について

審決は対応点(1)、(2)についてそれぞれ検討し、そのいずれも格別なものではない、つまり、それぞれの構成は同一であるからそれらを結合した全体の構成で得られる本願発明と原出願の発明とは同一であると判断している。このように、両発明の構成が同一であると認められる場合において両発明の効果もまた同一であるのは当然のことであり、したがつて審決において効果について検討するまでもなく同一の発明であると判断しているのである。

また、原告は、(1)「充電用電極手段の数が少ない場合、針状電極のように電極手段の径が小さい場合、スペーサ手段の数が少なくてスペーサ手段相互の間隔が広くなるような場合」をあげているが、これらは本願の特許請求の範囲に特定されているわけではないから、これらの場合に基づく原告の効果の主張は合理性な根拠がない。(2)「充電用電極手段の露出端部と記録媒体の電荷保持面との間に高い精度で間隙を維持できる」という効果は原出願明細書に記載されており(項第3号証5欄2行~5行、10欄36行~38行参照」、原出願の発明により当然得られる効果である。(3)原告が「原出願の発明で得られない効果である」と主張する構成上の根拠は、原出願の発明の電圧充電装置が「充電用電極手段の端部と絶縁体の端面とが一致していない充電用ヘツド」を含んでいるということにあると推察される。しかし、このような充電用ヘツドは絶縁体の端面より突出した電極を含み、原出願の明細書に記載した効果を奏し得ない結果をまねく。したがつて、原告の原出願の発明では得られない効果であるという主張自体誤りであり、本願発明と原出願の発明との間に構成、効果いずれの点においても格別な差異はない。

第四証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因1ないし3の事実、審決の理由の要点中本願発明及び原出願の発明の各要旨認定はいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決取消事由(1)について検討する。

1  当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲によると、本願発明は、審決認定の本願発明のA項、B項、C項からなる(以下単に「A項」、「B項」、「C項」という。)ものであつて、A項の構成を有する充電用ヘツドとB項の構成を有する記録媒体とをC項のとおり組合わせる構成を有する静電記録装置であることが認められる。

2  これに対し、前叙状当事者間に争いのない審決の要旨認定によれば、原出願の発明の特許請求の範囲は次の(A)項、(B)項からなる(以下単に「(A)項」、「(B)項」という。」ことが認められる。

(A)  充電用電極手段を有する電圧充電装置で静電記録をするのに用いられる静電記録媒体おいて、

(B)  静電電荷を受けて保持する外表面を有する誘電層と、前記誘電層の内部に少なくとも一部が埋設され前記誘電層の前記外表面から0.00127~0.01016mm(0.05~0.4mil)突出したスペーサ手段を有し、前記スペーサ手段は前記誘電層の前記外表面のうち少なくとも80%に相当する電荷保持面を残すように相互に間隔をあけて設けられていることを特徴とする静電記録媒体

3  審決が本願発明のA項と原出願の発明の(A)項中の「充電用電極手段を有する電圧充電装置」とを対応するものとし、本願発明のC項は作用効果を表現したものであつてそれ自体格別な構成を表したものではないとしていることは、前記当事者間に争いのない審決の理由の要点3の記載から明らかである。

しかしながら、前叙のとおり、C項は本願発明がA項の充電用ヘツドとB項の記録媒体を組合わせた静電記録装置の発明であることを明らかにしたものであつて、単なる効果の記載ではなく、A項は右記録装置の構成部分である充電用ヘツドの構成を規定したものであることはA、B、C項の記載から明らかである。これに対し、原出願の発明は(B)項記載の構成を有する静電記録媒体の発明であり、「充電用電極手段を有する電圧充電装置」の記載を含む(A)項は、(B)項の静電記録媒体の用途を限定するための記載であつて、原出願の発明の構成要件を定めたものといえないことは前記(A)項(B)項の記載から明らかである。

被告は、原出願明細書中に被告指摘の(イ)(ロ)の記載があるので(A)項中の「充電用電極手段を有する電圧充電装置」の記載はA項の構成と同一である旨主張するが、本件における発明の同一性の判断は、特許請求の範囲に記載された発明を対象とすべきものであり、発明の詳細な説明にのみ記載された発明はその対象とすべきでないから、原出願明細書に(イ)(ロ)の記載があるからといつて、(A)項中の前記電圧充電装置が右(イ)(ロ)記載のものに限られる理由はなく、前叙のとおり用途限定のための規定であることが明らかな(A)項中の前記記載を原出願の発明の構成要件の記載と解することはできない。よつて、被告の前記主張は採用できない。

3  以上のとおりであるから、(A)項の「充電用電極手段を有する電圧充電装置」が原出願の発明の構成要件であることを前提としてこれが本願発明のA項に対応するとし、C項を格別な構成を表したものではないとした審決の判断は誤りである。そして、この誤りが両発明が同一であるとの審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の取消事由について検討するまでもなく審決は違法として取消しを免れない。

三  よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瀧川叡一 裁判官 西田美昭 裁判官 木下順太郎)

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